東京高等裁判所 昭和31年(う)811号 判決
被告人 内田安夫
〔抄 録〕
(一) 原判示窃盗の各事実は、いずれも原判決挙示の証拠によつて優に認めることができ、記録を精査し、当審における証人尋問の結果に徴するも、原判決の事実認定に誤ある廉を見出だされない。すなわち、被告人は日活株式会社撮影所に撮影助手として勤務中、映写製作に必要量の生ネガフイルムを同撮影所製作部長の承印を受けて出庫伝票によつて同部管財係所管のフイルム倉庫から受領して使用するに際して、日々撮影作業報告書の数量を虚偽に記載し、余剰呎数を作つて、勝手に同会社から同フイルムを持出して他に売却していたことは証拠上明白であつて、よしや一作品の撮影に要する概算呎数のフイルムを被告人において同会社のため占有していたとしても、それは同撮影所内において映写製作に従事中これに必要な資料の配付を受けている関係であつて、会社の所持と支配とを離れて被告人の独立した占有保管に委託せられたものではない。であるから、被告人が同撮影所技術課長三輪晋平管理の生ネガフイルムを窃取した旨を判示した原判決に事実誤認の廉はなく、右事実に対して刑法第二三五条を適用したのはまことに正当であつて、控訴趣意第二点の各所論は排斥せらるべきである。つぎに同一点(一)所論の被害届に被告人が同会社から本件フイルムの保管を命ぜられていた旨の記載はあるが、これは前説示のごとき関係で被告人に渡されていたものであることを指すものであつて、会社の所持と支配とを離れて被告人が保管していた趣旨ではないとみられるので、右被害届が原判示窃盗の証拠として適しないものではなく、原判決に理由のくいちがいがあるものではない。また同(二)所論の本件被害物件の時価については、一呎一九円五〇銭がフイルム業者より大量に仕入れる価格であつて、いわゆるバラの小売値段はむしろこれを上廻るものというべく、けつして被害価格の適示として妥当を欠くものではない。
(二) さらに同所論(三)のごとく原判決摘示犯罪事実一覧表2の犯罪日時が昭和二九年八月三日頃となつているのは事実であるが、この対応証拠とみられる被告人の検察官に対する昭和三〇年一二月三日附供述調書によれば、右は昭和二九年八月三〇日頃の誤記(起訴状についても同様)と認められるので、この点について原判決に理由を附せず又は理由にくいちがいがある廉はない。かくして原判決には所論のごとき違法は毫も存しないのであるから所論はいずれも採用しがたく、論旨はすべて理由なきものである。
(中野 尾後貫 堀真)